東京高等裁判所 昭和48年(行コ)44号 判決 1975年2月27日
控訴人 大橋光雄
被控訴人 文部大臣
訴訟代理人 国井成一 阿南文孝 ほか二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 <省略>
理由
当裁判所は、控訴人の本件学校法人名城大学理事及び評議員解職処分無効確認請求及び同取消請求はいずれも失当であつて、棄却すべく、かつ控訴人が同大学理事の仮の地位にあることの確認を求める訴は不適法であつて却下すべきものと判断する。その理由としては、原判決の理由中の説明を引用するほか、以下の説明を付加する。
<証拠省略>によれば、控訴人は、昭和三五年五月一一日補助参加人学校法人名城大学の理事会の決議によつてなされた控訴人に対する理事解任処分が無効であるとして、名古屋地方裁判所に地位保全仮処分の申請をなし、同年一〇月二一日同裁判所において、控訴人が学校法人名城大学の理事たる地位を有することを本案判決の確定に至る迄仮に定める。との旨の仮処分の判決を受けたことが認められる。而して、右仮処分判決は、控訴人と名城大学との間の理事解任処分の効力をめぐる紛争が本案判決によつて解決する迄、控訴人に対し、右解任処分が無効であつた場合に控訴人が有すべき従来の理事たる地位を保全したにとどまるものであるから、右解任処分が無効である旨の控訴人の主張が正当であるとしても、右紛争の原因たる解任処分とは別個に、辞任、解任または任期満了等の退任事由が生じたときは、控訴人が名城大学の理事たる地位を失うに至ることは当然のことであり、前記地位保全の仮処分判決がこれを妨げるものでないことはいうまでもない。而して、控訴人に対する本件解職処分が為されるに至つた経緯は、当裁判所も前記引用にかかる原判決が認定したとおりであると判断するものであつて、これを要約すれば以下のとおりとなる。即ち、名城大学の紛争は、昭和二九年頃同大学の理事会において、当時の田中寿一理事長の管理運営を支持する者とこれに反対する者との間の対立として端を発し(第一次紛争)、昭和三三年一旦は和解が成立して解決したかに見えたが、間もなく田中寿一理事長が第一次紛争の責任を追及すると称し、同理事長に反対する理事、学長及び教職員らを解任したことにより再燃し(第二次紛争)、その対立抗争は教職員及び学生らを捲き込んで激化の一途を辿り、その間控訴人は田中寿一派に属していたが、昭和三五年には同人と意見の対立をきたして解任され、同大学の紛争をめぐつて数十件の民事訴訟が提起され、刑事告訴も為される有様で、同大学の管理運営は数派にわかれて抗争する理事、教職員及び学生らによつて収拾のつかない状態となり、紛争当事者による自主的な解決は到底期待することができなかつた。そこで、被控訴人は、学校教育の公共性の見地から、私立学校法第六二条の規定による解散命令という最悪事態を避けるため、学校法人紛争の調停等に関する法律にもとづいて調停委員会を設置し、名城大学の紛争を調停に付したところ、大多数の関係者は調停委員会が提示した調停案を受諾したが、控訴人ら数名の者がこれを受諾しなかつたため、被控訴人は同大学の正常な管理運営を回復するためには他に方法がないと認め、やむなく同法にもとづいて控訴人らを解職処分に付したものである。およそ以上のとおりであつて、本件解職処分は、数派にわかれて抗争する名城大学の管理運営を正常に戻すという行政目的のために為されたものであり、名城大学理事会の控訴人に対する前記解任処分とは全然別個の事由にもとづく解職処分であるから、控訴人が本件解職処分により同大学の理事及び評議員たる地位を失うに至るとしても、右処分をもつて前記地位保全仮処分判決に抵触する違法な処分ということはできない。また、本件解職処分は、控訴人と名城大学との間の前記紛争についてなにらの判断を示すものではないから、行政機関が裁判を行なうことには当らず、右処分により控訴人と名城大学との間の前記紛争をめぐる本案訴訟につき訴の利益が失われることになるとしても、それは独自の行政目的を有する本件解職処分の反射的効果に過ぎないものであるから、これをもつて控訴人の裁判を受ける権利を不当に奪うものということはできない。それ故、右地位保全仮処分判決が存在し、或いはその本案訴訟が係属していたことを理由として、本件解職処分の無効確認または取消を求める控訴人の主張は失当たるを免れない。
よつて、原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第一項の規定により本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条及び第八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 平賀健太 安達昌彦 後藤文彦)